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HERGOPOCH TANNER INTERVIEW

エルゴポック20周年記念 タンナーインタビュー
by センティーレワン

HERGOPOCHが惚れ込んだ“本ヌメ革”
タンナー山陽が生み出す、必要不可欠なピース

満を持して復活を果たした、HERGOPOCHのMG2(マージ)シリーズ
前回のインタビュー(ブランドディレクターへの取材)でも話題になったように、
男らしくも洗練された雰囲気を放つ、HERGOPOCH屈指の人気シリーズです。

このマージシリーズのアイテムに力強さを与えているのは、
付属部分に採用された存在感のある3.5mm厚のヌメ革

ブランドディレクター曰く、このヌメ革にもHERGOPOCHの世界観や、
MADE IN JAPANの本質的な要素が詰まっているとのこと。

今回その答えを知るべく、私たちセンティーレワンスタッフはHERGOPOCHのディレクターチームに同行。
マージシリーズのヌメ革を製造するタンナー「株式会社 山陽」を見学してきました。

  • 取材参加者:
  • 株式会社山陽 間嶋さま
  • 株式会社キヨモト 代表取締役社長・ブランドディレクター 清本さま
  • センティーレワン株式会社 平
HERGOPOCH TANNER INTERVIEW01

ヌメ革とは…

マージシリーズに使われている、染色されたヌメ革

センティーレワンでも数多く取り扱いのある“ヌメ革”のアイテム。
ヌメ革と聞くと、「薄ベージュ色のナチュラルな革=白ヌメ革」を想像される方が多いかと思います。

※右写真:一般的なヌメ革(白ヌメ革)の例

※上写真:一般的なヌメ革(白ヌメ革)の例

しかしこのマージシリーズのように、染色された革であっても、ある条件を満たしていればヌメ革に属するのです。ヌメ革とは、具体的に以下の条件に該当する革を指します。

  1. 1. 植物から取れる“タンニン(渋)”だけを使ってなめし処理がなされた革
  2. 2. 型押しや表面処理を行っておらず、あくまで必要最小限の加工のみを行った革

マージシリーズの革も、上記の条件を満たしヌメ革と呼ばれています。

さらにこのマージシリーズのヌメ革というのは、ピット槽を用いて作られる“本ヌメ革”と呼ばれる革。では、“本ヌメ革”と一般的なヌメ革には、どのような違いがあるのでしょうか。

その違いについても、今回の取材を通じて目の当たりにすることになります。

HERGOPOCH TANNER INTERVIEW02

創業100年以上の老舗タンナー「株式会社 山陽」

今回訪問したのは、革の聖地である兵庫県姫路市に工場を構える「株式会社 山陽」。
創業は1911年(明治44年)と、実に100年以上もタンナー業を営んでいる、牛革専門の老舗タンナーです。

株式会社 山陽では、「クロムなめし」「タンニンなめし」「白革なめし」の3種類の鞣しを行っており、これら3種類の鞣しに対応しているタンナーは、全国でも株式会社 山陽1社のみ。

また、国内のタンナーでは2社目となる“LWG環境認証 ※1”を取得しており、昨今の環境問題に対しても真摯に向き合うタンナーなのです。

※1…LWG環境認証は、皮革産業の環境保護を目的とした国際認証団体であるLWG(レザーワーキンググループ)が発行する認証。皮革の生産工程における環境対策を審査し、厳格な国際基準に準拠した製革業者に与えられる。

HERGOPOCH TANNER INTERVIEW03

類い稀な“ピット鞣し”

国内に何百社とタンナーがある中、HERGOPOCHがマージシリーズのヌメ革を、タンナー山陽に依頼しているのには大きな理由があります。

それは“ピット鞣し”が可能であるタンナーということ。

“ピット鞣し”とは、ピット槽と呼ばれるタンニン液の入った巨大な槽を使い、長い時間をかけてゆっくりと革を鞣す手法です。

近年主流となっているタイコ(グルグルと回る木製の大きな樽)で鞣す手法に比べ、ピット鞣しは膨大な時間と手間を要します。

そのため、昨今国内でピット槽を保有するタンナーはごく僅か。(私自身この業界には長くいますが、今回の取材ではじめてピット槽を見ることが出来ました)

しかしその工程を経て完成した“本ヌメ革”は格別であるといいます。質感、ハリ、経年変化など。一般的なヌメ革とは一線を画す風合いに仕上がるのです。

HERGOPOCH TANNER INTERVIEW04

生産工程

ではどのような工程を経て、マージシリーズのヌメ革が完成するのでしょうか。実際にマージシリーズのヌメ革ができるまでの生産工程を覗いてみたいと思います。

原皮保管倉庫

塩漬けの状態で海外から送られてきた牛の原皮を保管する冷蔵倉庫。保管倉庫を持っているタンナーは少ないのだとか。

水漬け

タイコ(ミキサードラム)と呼ばれる機械に入れて、汚れや塩分を洗い流し、もともとの生皮の状態に戻す工程。

裏打ち(フレッシング)

革の裏面に付着している不要なものを取り除く工程。

脱毛・石灰漬け

石灰乳を使って毛などを取り除きながら、皮を柔らかくする工程。

分割(スプリッティング)

不要な部分(ニベ)を取り除き、大まかに厚みを整える工程。(ヌメ革の場合は厚みを目一杯残すため、ニベを取り除く程度)

ピット鞣し

半裁(2分割)にした革を、タンニンの入ったピット槽に1ヶ月間漬け込み皮を鞣す工程。槽の数が限られているため、1ヶ月当たりの革の生産数量も限られます。

  1. 1.まずタンニン濃度の薄い槽に1日漬け込み前鞣しを行います。

  2. 2.続いてタンニン濃度を徐々に濃くしながら、じっくり1ヶ月間漬け込み本鞣しを行います。

乾燥

ヌメ革は耐熱性が弱いため、扇風機などで風をあてながら自然乾燥を行う。(7日から10日ほど)

シェービング(ヌメ革は裏面の漉割)

使用用途に応じて、革の裏面を削って厚みを調整する工程。HERGOPOCHもマージシリーズで使用する革は3.5mmのため、基準に達する革を選別します。

染色・加脂

タイコを用いて革を染め、脂分を加える工程。油剤の量によって仕上がる革の風合いも大きく変わります。

完成

その後、再度風をあてながら自然乾燥を行い完成。このような多くの工程を経て、HERGOPOCHのマージシリーズのヌメ革は作られています。製造期間はおよそ2ヶ月弱。

HERGOPOCH TANNER INTERVIEW05

3.5mmという肉厚なヌメ革

マージシリーズの付属に使われる3.5mm厚のヌメ革

ご覧いただいた通り、マージシリーズのヌメ革は、膨大な時間と手間をかけてつくられています。

一般的な方法(タイコを使用する方法)で鞣されたヌメ革と比較しても、何十倍もの時間、そして何倍ものコストがかけられているのです。

また生産において困難なのは、鞣しの工程だけではありません。そもそも3.5mmという肉厚なヌメ革を仕上げるために必要な原皮を、調達すること自体が非常に難しいとのこと。

最終段階で3.5mm以上の厚みがとれる原皮の発生率は、なんとたったの2割程度。つまり原皮を100枚購入しても、マージシリーズのヌメ革の基準値をクリアできるのは、僅か20枚ほどということになります。

もちろん厚みがあるが故に、各工程も通常よりも時間を要してしまいます。乾燥にかかる時間や染色にかかる時間。そしてウエイトがあるぶん、染色などの工程で1度に回せる皮の量も少なくなるのです。

このことからも、いかにマージシリーズのヌメ革が希少で、どれだけ膨大な時間とコストをかけてつくられているのか、ということが窺えます。

HERGOPOCH TANNER INTERVIEW06

“本ヌメ革”ならではの魅力

これだけの時間とコストをかけてまで、タンナー山陽がピット槽を用いて“本ヌメ革”を作る理由はただ1つ。「本ヌメ革にしか出せない独自の魅力があるから」と、担当者の間嶋様は語ります。

時間をかけてじっくりと鞣された本ヌメ革は、ハリが強く堅牢性に優れているため、型崩れしにくいという特性があります。

これは、鞣しの工程で必要最低限のアクションしか与えないため、皮の繊維が維持されているからだそうです。実際に完成した本ヌメ革の下地を拝見させていただきましたが、私の知るヌメ革よりもハリが強く力強い風合いでした。

また本ヌメ革の特徴として、コバ面(断面)が非常に綺麗に出るため、断面に塗料などを塗る必要がないのだとか。

そしてなにより本ヌメ革最大の魅力は、“経年変化”にあると言います。ピット槽で時間をかけて鞣された革はタンニンを多く含んでいるため、使い込むことで深みが増し、素晴らしい表情へと変化していくそうです。

つまり“本ヌメ革”は、お客様(持ち主)が使い込むことで、120%、200%…それ以上もの魅力を引き出す、無限の可能性を秘めた革であるということ。

これこそがタンナー山陽が追求し続けてきた、“ヌメ革の本質”なのかもしれません。

そしてまたHERGOPOCHもこの“本ヌメ革”の魅力に共鳴し、ブランドの世界観を表現するための“必要不可欠なピース”として、マージシリーズのプロダクトに採用したそうです。

HERGOPOCHディレクターの清本氏も、タンナー山陽の生産背景を見て、「この革ならもう一度マージシリーズをお客様にお届けできる」と、確信が持てたと言います。

HERGOPOCH TANNER INTERVIEW07

あとがき

今回、マージシリーズのヌメ革を製造するタンナー「株式会社 山陽」を見学させていただきました。

皮革の製造には膨大な時間を要すること、多くの職人さん達が関わっているということを、私たちも改めて認識することができました。そして当店センティーレワンで取り扱うアイテムには、手元に届くまでに様々なストーリーがあるのだということを-。

私たちが目にした生産背景にこそ、HERGOPOCHの表現したい“日本のものづくりの本質”が詰まっているのかもしれません。今回の取材を通じて、HERGOPOCHの世界観に触れていただければ幸いです。

20周年記念 センティーレワン
別注モデル

20周年記念 別注モデルの打ち合わせ風景

そしてこの度、HERGOPOCHブランド創立20周年を記念して、センティーレワン別注モデルを展開する運びとなりました。

マテリアルはもちろん『MG2(マージ)シリーズ』のレザーを使用。今回私たちが直接肌で感じた、本ヌメ革をどのようなアイテムで表現するのか―

今春発売予定のセンティーレワン別注モデルにご期待くださいませ。

HERGOPOCH TANNER INTERVIEW08

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