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HERGOPOCH INTERVIEW

エルゴポック20周年記念インタビュー
by センティーレワン

対談参加者:
株式会社キヨモト 代表取締役社長・ブランドディレクター 清本さま
センティーレワン株式会社 平

2025年にブランド創立20周年を迎える「HERGOPOCH」。過去20年と今後の展望をうかがうべく、株式会社キヨモトの代表取締役 兼HERGOPOCHのブランドディレクターである、清本さまにインタビューさせていただきました。
「過去」「現在」「未来」3つの時系列に沿ってお話いただいた、様々なエピソードや想い。さらにその過程で誕生した、思い入れの強いアイテムについてうかがいます。

HERGOPOCH INTERVIEW 20周年記念インタビュー 01

過去20年を振り返って

ブランド誕生のお話

まずは、HERGOPOCHブランド誕生のお話を聞かせていただけますか。

HERGOPOCHは2005年に誕生したレザーブランドです。
私たち株式会社キヨモトは70年ほどに渡り鞄のOEMメーカーとして、様々なブランドさんのものづくりをお手伝いしてきました。

ただOEMメーカーというのは、自分たちのものづくりに対する技術が向上していっても、クライアント様からお仕事をいただかないと生業として成立しないんです。その中で、どうすれば“ものづくり”を後世にハンドオフしていけるのかっていう課題に直面しました。

私たちにはものづくりに関するノウハウやインフラはありますが、直接お客様(消費者の皆様)に届けられるようなコンテンツは、持っていませんでした。

そこで、日本のメーカーとして「日本のものづくりを絶やさない」という信念、そして「キヨモトとしてものづくりを後世に引き継いでいく」という想いを持って、HERGOPOCHを立ち上げました。

HERGOPOCHの確かな品質には、そうした裏付けがあるのですね。

私たちは国内だけではなく海外にも生産ラインを持っていますが、私たちのDNAでもある“日本のものづくり”を継承し、そして成長させること。

さらには日本のものづくりが衰退の一途をたどる現状に歯止めをかけるための、1つのツールとしてこのブランドが何か役に立てるのではないか。そのような大きなテーマもHERGOPOCH誕生の背景にあります。

HERGOPOCHは、なぜメンズのレザーブランドとなったのでしょうか?

長く愛していただけるようなプロダクトを作るブランドでありたい」という点に重きを置くと、必然的に“メンズのレザーブランド”になりました。

メンズの市場はレディースほど大きくはないのですが、ひとつ気に入ったアイテムがあると、それに愛着を持ってずっと使い続けていただける、という傾向があります。僕もそうなんですよね。

レザー製品って、修理してずっと長く使っていくという文化もあるので。お客様に、ブランドロイヤリティを感じていただけるようなブランドにしたかった、というのがあります。

そしてレザーブランドであるHERGOPOCHのものづくりには、こだわりがあります。
それはレザー素材も、既に流通しているレザーを主に使用するのではなく、HERGOPOCH独自のオリジナルレザーを開発しているという点です。

さらにそのレザーの特性に合ったプロダクトを企画していく。HERGOPOCHの商品はそのような手順で開発されているのです。

【ピックアップアイテム:06-OS】

“過去”のテーマからは、HERGOPOCHのアイコンとも呼べる、ショルダーバッグ『06-OS』についてお聞かせください。

このアイテムはすごく印象に残っています。2011年、今から約13年前にリリースした商品です。

というのも震災(3.11)のタイミングだったんですよね。当時インフラがすべて止まってしまって大変だったことを覚えています。一緒に困難を乗り越えた思い入れのある商品です。

06シリーズはどのようなシリーズと言えますか?

唯一立ち上げ当初から存続する、HERGOPOCH主力のシリーズですね。

06-OSは展示会でお披露目した時から反響が大きく、私たちの肝煎りのショルダーバッグでした。そして有難いことに、リリースして間もなくお客様からも多くの評価を頂くことができました。

どのような点が評価されたと思われますか?

06-OSは、一言で言うと“デザインの魅力が詰まっているバッグ”なんですよね。

デザインの奇跡的な塩梅というか、素材とデザインのバランスというか…。縦型のショルダーバッグに、この仕立て映えする手縫いのハンドルが1つ入るだけで、完成度がぐっと上がるんですよ。

良い家具と一緒でどこから見ても美しいフォルム。佇まいが美しいっていうのはそういうことです。

なるほど、名作の家具やインテリアのような、完成されたプロダクトなのですね。

きっと言葉で説明しなくても心に響いていくんでしょうね。ここにたどり着くまでには、本当に試行錯誤しました。

その甲斐あって、10年に1度とかそのレベルで、簡単には生み出せないバッグになったかなと。そう考えると06-OSの誕生は、私たちにとってのターニングポイントの1つだと思います。

まさに時代を超えて愛されるアイテムということですね。

HERGOPOCH INTERVIEW 20周年記念インタビュー02

“今”私たちが表現すべきこと

時代に流されない“HERGOPOCHらしさ”

コロナ禍を経て私たちのライフスタイルや価値観も大きく変化しました。その変化によって、HERGOPOCHのプロダクトにも何か変化はあったのでしょうか。

今やファッション業界ではジェンダーレスが前提になっているので、構想の段階で意識しているところはあります。ただその文脈を、商品の企画や開発にまじまじと落とし込んでいるという感覚は、実のところありません。

というのも、有難いことにHERGOPOCHのアイテムは、ジェンダーレスという価値観が今ほど業界に浸透する以前より、女性から強い支持をいただいていました。例えば店頭などでも、パートナーからの勧めでHERGOPOCHのバッグを購入する、という男性のお客様が多くいらっしゃいました。

ユニセックスに持てる、トッカベーネシリーズ

どういった点が評価につながったのでしょうか。

HERGOPOCHのアイテムは、素材の風合いやカラーバリエーション、そして何よりデザインの主張がそこまで強くありません。つまり、素材や仕立ての良さなど、ものづくりの本質的なところを評価いただけているのだと思います。

そういった背景もあり、時代に合わせてあえて舵を切り替えたという感覚はありませんでしたね。

たしかにHERGOPOCHのアイテムは、弊社でも昔から女性スタッフの人気が高いです。

本当ですか、ありがたいです。そこに加えて柔らかいレザーを使ったシリーズが増えたので、(結果的に)ブランド全体の印象が少し変化した、というのはあるかもしれません。

“HERGOPOCHらしさ”を柔らかいレザーに落とし込むことで、必然とジェンダーレスなアイテムが増えたー、このような見え方はあるのかもしれませんね。

もともとの“HERGOPOCHらしさ”の中には、時代に流されない“普遍的でシンプルなデザイン”という要素があります。その世界観と時代が上手くマッチングしたのではないでしょうか。

世の中の価値観が変化しようとも、より長く使っていただくためには、素材と仕立て、そして少しの“らしさ”みたいなものが混ざると、ちょうど良いのではないかと考えています。

MADE IN JAPANを届けるブランドとしての責任

20年近く歩んできたHERGOPOCHですが、お客様に特に注目していただきたいポイントはありますか?

私たちのブランド活動の中には、「(いわゆる)量産型の日本ブランドとの違いを感じてほしい」という考えがあります。

HERGOPOCHを評価していただくという事は、日本のものづくりを評価していただく事にも繋がるー。これは私たちが70年間培ってきた“ものづくり”であったり、HERGOPOCHというブランドを通じて、“日本のものづくり”に真摯に向き合ってきたからこその考え方と言えるでしょう。

その上で、私たち“日本のものづくり”に真摯に向き合うブランドというのは、本来 評価して頂いた対価に見合う企業活動を行う責任があると考えています。

企業や職人さんたちとの関係づくりだったり、次の世代に繋いでいくための環境づくりだったり。伝統や文化を絶やさないよう、ものづくりのインフラを整えるための活動を行っていかなければなりません。

残念なことに、未来のことを考えず、ただMADE IN JAPANというタグを付けて販売しているブランドも、少なからず存在します。「MADE IN JAPAN」という言葉が、単なる宣伝文句になってしまっているのです。

いつの間にか「MADE IN JAPAN」という言葉の価値が一人歩きしてしまったのですね。

そういうことです。このインタビューを通してお客様にも知っていただきたいのは、「その商品(ブランド)を応援(購入)する価値は一体どこにあるのか?」ということ。

目の前にある日本ブランドは、日本ブランドとしてどのような活動を行っているのか。そのブランドを運営している企業ってどういう企業なのか。そういうところにもっと関心を持っていただければ、と思っています。

私たちはそういった(MADE IN JAPANを宣伝文句として捉えている)ブランドに埋もれないためにも、お客様のことはもちろん、“MADE IN JAPAN”の本質にも真摯に向き合い、日本ブランドとして商品のその裏側にあるブランドの付加価値や、ストーリーをしっかりと伝えていく必要があります。

単に「いい素材を使っているから高いんですよ」とか、「日本で作っているから縫製工賃が高いんですよ」とか…、そういう話で終わるのではなくて。

「ちゃんと日本のものづくりの未来まで考えているブランドなんだ」ということを、しっかりお客様に表現していかなければならない。そうすることで、(お客様が)より日本ブランドの活動に関わっていくことへの、意義を感じていただけると信じています。

【ピックアップアイテム:TC-AS】

“現在”のテーマからは『TC-AS』というバッグをピックアップして、エピソードをうかがえればと思います。

TC-ASは、06-OS以来のターニングポイントとなるアイテムかなと思っていて。

実は新しいデザイナーが単独で開発した1つ目のアイテムなんですよ。完成した時は、私たちの中でも06-OSと同じような衝撃が走りました。

素晴らしいですね。TC-ASにはどういった特徴があるのでしょうか。

(TC-ASのシリーズである)トッカベーネというシリーズが、HERGOPOCHの中でも珍しくイタリアのレザーを使った、カジュアルなアイテムを作り上げるシリーズとして以前からありました。

アパレルと親和性の高い商品開発をしていけたらいいな、というのがシリーズコンセプトの1つで。2年ほど前に、TC-ASというバッグが開発されました。

この商品の強みって、やっぱり革の特性を生かしたドレープなんですね。革がくたっとなり綺麗なシルエットが出るので、肩にかけてワンショルダーっぽく持つと、すごくスタイリングに馴染みます。

確かにTC-ASのバッグは、この柔軟なレザーの魅力を最大限に引き出しているように感じます。

HERGOPOCHがヒットを出す時って、その革の特性や特徴の本当にど真ん中を捉えた時です。これもそういうアイテムなんですよね。革の特徴を本当にうまく表現できていますし、今の時代感ともすごくマッチしていると思います。

発売当初からお客様の反応も違いましたか?

このアイテムに関しては海外のお客様もぱっと見て、「ああ、これいいじゃん」って言ってくれて購入していただけるんですよ。

06-OSもそうなのですが、結局いいアイテムっていうのは国内外問わず評価が高い。これらのアイテムの反応を見ていると、デザインの持つ魅力が革の良さと相まって評価につながる、というのは万国共通なんだなって感じます。

まだリリースして間もない1、2年選手なので、ブランドとしても想いをのせながら、このアイテムを広めていきたいなと思っています。

HERGOPOCH INTERVIEW 20周年記念インタビュー03

次の20年について

今後の展望

今後の展望をうかがえますか。

先ほどお話ししたように、HERGOPOCHは日本のものづくりを次世代に継承していく、育んでいくという想いを持って立ち上げたブランドです。

ブランドとしての世界観を高めていく上では、よりプロダクトの素材だったり、資材だったり、仕立て作りというところの完成度を、どんどん上げていかなければならない。

ブランドの表現をより豊かにしていくことで、原点であるものづくりを、より広く全国の皆様にお届けしていくことができると考えています。

御社のような、MADE IN JAPANを大切にしていただいているショップさんと、しっかりとタッグを組み、HERGOPOCHとMADE IN JAPANの良さであったり、豊かさというものを、より多くの方々に届けて行きたいと思います。

次の20年についても、より良いものづくりを日々探求し、ブランドを育んで行きたいですね。

その結果、本当にモノを好きな人に共感していただけて、HERGOPOCHのプロダクトを長く愛用していただければ、これが一番嬉しいです。

【ピックアップアイテム:MG2シリーズ】

“未来”のテーマからは『マージシリーズ(MG2シリーズ)』をピックアップして、お話をうかがえればと思います。

“マージ”とは「合わさる」という意味です。HERGOPOCHが展開するマージシリーズというのは、その名の通り表情の異なる2種類のヌメ革で作り上げたシリーズになります。

まずこの付属に使用されている革は、ピット鞣し※1と呼ばれる手法で鞣(なめ)した革です。
(※1…ピット鞣しとは、ピット槽と呼ばれる巨大なプールのような設備を使って、長い時間をかけて鞣す方法)

そして本体には、ふんだんにオイルを含んだしっとりとした質感のレザーを使っています。どちらもベジタブルタンニン鞣しの革らしい革を使用しており、HERGOPOCHでは珍しく男性らしい雰囲気に仕上がっています。

マージシリーズの2WAY ボストンバッグ MG2-BT

確かにマージシリーズからは、HERGOPOCHの他のラインナップにはない無骨な雰囲気を感じます。実は個人的にも大好きなシリーズで、前身の“MGシリーズ”のトートバッグをずっと愛用しておりまして。

ありがとうございます。おっしゃる通りマージシリーズというのは、数年前に一度やめてしまったシリーズなんです。このシリーズをやめた理由って、私たちが掲げたテーマに沿うレザーが上がってこなくなってしまったからなんです。

HERGOPOCHの世界観や、MADE IN JAPANの本質的なところを表現できないんだったら、やっぱりそれはお客様にお届けするべきではない。そういった苦渋の判断で一旦お休みしていました。

右:マージシリーズの2WAY トートバッグ MG2-TT

なるほど。この度マージシリーズが復活することになったキッカケというのは?

この3.5mm厚のヌメ革とオイリーなスムースのレザーを供給できるタンナーさんと協業ができることになったからです。この革を作ることができるタンナーさんって国内にはもうほとんどなくて。

満を持して復活させたシリーズだけあって、MADE IN JAPANの名に恥じないクオリティのレザーに仕上がっています。この素上げの表情を楽しんでいただきたいので、余計な加工もあえてしていません。

これだけ肉厚なレザーを使用しているバッグってあまり見ないですよね。

正直、時間も手間も非常にかかります。革自体も時間がかかるゆえに潤沢にあがってこない。ましてや3.5mm厚の革となると、そもそも原皮をそろえるのが困難なので。

ですのでこのシリーズに関しては、たくさん作ってたくさんの人に届けるというよりは、HERGOPOCHらしく、ブランドと一緒に育んでいきたいなと思っている。そういう位置づけのシリーズです。

お客様へのメッセージ

最後に、当店のお客様へメッセージをいただけますか?

いつもご愛顧誠にありがとうございます。

センティーレワンさんは、厳選した国内のブランドを発掘し、皆様にお届けするセレクトショップです。HERGOPOCHもその中に選んでいただけていること、チーム一同誇りに思っております。

これからも本質的な日本の物作りと日々向き合い、皆様のライフスタイルをHERGOPOCHのバッグで少しでも彩り、豊かにできるよう、より良い商品開発を追求して行きたいと思います。

今後もHERGOPOCHのプロダクトから目が離せません。本日は貴重なお話をありがとうございます。

清本さまと
HERGOPOCH INTERVIEW 20周年記念インタビュー04

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